婚活
加納さんの声が つもと違うように聞こえるのは、気のせいだろうか?何かこう……楽しそうというか、生き生きとしている感じがする。
「はい、大丈夫です。それじゃ……」
「あっ、待って。沢村さん」
エッ……。
電話を切ろうとして、加納さんが慌てた声を出した。
「沢村さん。僕……結婚する事になったんです」
「えっ?」
結婚?
加納さんが?
あの前の彼女の事を忘れられずに居た加納さんが、何故、急に結婚を?
「沢村さん。あれからいろいろあってね……。話すと長くなってしまうんだけど、彼女の事がどうしても忘れられず、何をやっても僕の頭からは離れなかった」
加納さん……。
「だから断ちきるために、もう一度だけ彼女に会ってみようと決心して会ったんだ」
「そうだったんですか」
あの加納さんが、自分から彼女に会いに行ったなんて想像し難かったが、それはやはり愛するが故の成せる業なのかもしれない。
「そうしたら……彼女は僕が迎えに来てくれるのをずっと待っていたと言ってくれたんだ」
「それじゃぁ……」
「そうなんだ。彼女と結婚する事にした」
「加納さん。おめでとうございます。凄いです。本当に凄いですよ。私も嬉しいです」
何故か、自分まで興奮していた。あそこまで加納さんを一途にさせていた彼女が、加納さんの元に戻ってきただなんて……。
「仕事もね。また元の研究室に戻る事になって……。それで今、引っ越しの真っ最中なんだ」
「良かったですね。本当におめでとうございます。どうぞお幸せに……」
「ありがとう。沢村さんもあの彼氏と上手く行く事、祈ってるから」
「あっ……はい。ありがとうございます。それじゃ」
「さよなら」
「さよなら」
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