婚活
「私はいいよ。蚊に刺されたくないし、あんた達だけでやったら?」
「俺の彼女も来るし、あとで花火OKの中央公園でやるから。俺、彼女と待ち合わせして 夕飯食べて来るから和磨と一緒に来いよ」
「えっ?な、何言ってるのよ」
「和磨が19時に迎えに来るから、現地集合な」
「ちょ、ちょっと裕樹。待ちなさい!」
裕樹はまるで聞く耳持たずで、部屋から出て行ってしまった。何だってこの歳になってまで、花火なんかしなきゃいけないのよ。しかもよりによって、和磨と一緒に行くなんて……。時計を見ると、すでに18時を過ぎている。最悪……。お昼も食べ損なっていたので、いい加減お腹が空いてしまい、フラフラになりながら下に降りていくと、ご飯がちょうど 出来上がったところだった。
「珠美。よく寝てたみたいねぇ」
「……」
「珠美。どうしたの?」
「お腹空き過ぎたのと、寝過ぎでボーッとしてる」
お腹が空きすぎて思考能力ゼロだ。かき込むようにしてご飯を食べ、一応、花火に備えて 渋々支度を始める。まさか、こんな部屋着では行かれない。裕樹の彼女も来るって言ってたし……。でも蚊に刺されたくないからGパンでいいか。暑いけど仕方ないよな。
「珠美。和君が来てるわよぉ」
「は、はぁい」
和磨。本当に来ちゃった……。どんな顔して会えばいいのよ。昨日の立ち聞きの事もあるし……。携帯と小銭入れだけポケットに入れ、階段を下りていくと和磨の姿が見えた。
「珠美。早くしろ。遅れると裕樹がうるせぇから」
「うん。行ってきまぁす」
門扉を閉めて、和磨のすぐ後ろを歩く。すると和磨が急に振り返ったので、驚いて立ち止まってしまった。
「何で、隣り歩かねぇの?」
「えっ?あ、あぁ……ごめん」
和磨の隣りを不自然な距離を空けて歩く。久しぶりに和磨の隣りを歩いた気がするな。
「珠美は、子供の頃から花火好きだったよな」
「えっ?」
「子供の頃、よく一緒に花火したジャン。でも必ず最後の1本は珠美が持ってたんだよな」
「そうだっけ?」
そんな事、すっかりもう忘れている。
「最後の1本持った珠美が、いつも凄く嬉しそうな顔してんだよ」
「本当?全然、覚えてないや」
「ハハッ……。覚えてないか……そうだよな」
和磨?
「あっ、青だ。珠美。渡るぞ」
「えっ?待ってよ、和磨。無理だよ、点滅してる」
「鈍くせぇなぁ、珠美。おせぇよ。ほらっ」
< 229 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop