婚活
あまりにも淳君が軽いノリで言っていた裏には、そんな経緯があったんだ。減反や高齢化で地方には就職先も少ないから、益々、都会一極集中型のように若者は地方から出てきてしまい、それが更に減反や就職難の拍車を掛けていると前にニュースでやっていた事があった。淳君も例外ではなく家が農家だって言ってたから、跡継ぎとして農業を営むのだろうけれど。都会暮らしを経験した事のある淳君なら、尚更、自分の置かれた現状が今、身にしみているのだろう。由佳が悪いわけじゃない。由佳自身のポリシーで自分には地方にお嫁には行かれない。絶対、務まらないと言っていたから。嫌々、お嫁に行ったところで後悔するぐらいなら、いっそ行かない方がいいとも……。
「だから友達誘って今日は来たから。もういいかな?俺達、由佳達と違って本当に切羽詰まってる奴が多いんだ。1分でも無駄にはしたくないからさ。それじゃ」
淳君……。何か、昔の淳君と違って、今の淳君は凛々しく見える。こっちに居た頃は、都会の普通の男の子と変わりなかったから気付かなかったのかもしれない。淳君は晴れ晴れとした表情で由佳にスッと手を挙げると、仲間の方へと戻っていってしまった。そんな淳君の後ろ姿をずっと見つめている由佳は、どんな気持ちなんだろう。
「由佳は、まだ淳君の事が好き?」
朋美が由佳の横に立ち、私も無意識のうちに由佳の隣りに立っていた。
「忘れられないんでしょ?」
朋美。
「でも無理なんだよ。私は淳の家と結婚するわけじゃないんだから」
由佳の正直な気持ちは、私にもよく理解出来る。もしお嫁に行く先が農家だったら……。傲慢かつ偏見でエゴな考えかもしれないけど、私だってやっぱり考えてしまう。
「だったら家に嫁に行かなきゃ、いいジャン」
「えっ?」
「だってそうでしょ?見たところ、多分、まだ淳君も由佳に未練があるようだし?由佳だってまだ忘れられそうにないみたいだし。だったら農業は出来ませんって言えばいいじゃない」
「朋美ね。そういうわけにはいかないのよ。 田舎って本当にいろいろあるのよ。都会からお嫁に行けば、それだけで好奇の目で見られるし……。それ故に何か粗相したりしたら、これだから都会から来た嫁は駄目だって周りから言われるの。面と向かっては言われなくてもそういうものなの。当人同士の気持ちだけじゃ、どうにもならない事だってあるんだから」
由佳……。
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