婚活
でも何だかんだ言って、流石保健体育の成績だけは良かった和磨。応急処置も手慣れたもので上手い。
「よし!終わり。下手に包帯とか、巻かない方がいい。治りが遅くなるから」
「うん。ありがとう」
救急箱に使ったものをしまい和磨に渡そうとして差し出すと、目の前に居る和磨と目が会った。
「大丈夫か?」
エッ……。
和磨が立ち上がり差し出した救急箱を受け取ると、椅子の上に置きながら私の頭の上に 掌をのせた。
「うん……」
立っている和磨を見上げると、和磨が横に座り両肩を持って私を自分の方に向けた。
「怖かったんだろ?でももう犯人捕まったから大丈夫だ。警察の話しだと、引ったくりの常習犯だったらしい」
引ったくり……。
そう言えば、あの時バッグを振り回しながらずっと抵抗してて、最後までバッグを手放さなかったかも。だから引きずられて……。思い出しただけで、背筋がゾクッとする。あの時和磨が通りかからなかったら、今頃どうなっていたんだろう。そう思うと、尚更怖くなってきた。
「珠美」
エッ……。
気づくとベッドに座ったまま、和磨に抱き締められていた。
「もう大丈夫だから、安心しろ」
和磨。私の知らない間に大人になって……。いつからそんな男らしくなって、こんなに胸板の厚い逞くて男っぽくなったの?
「近道だからって、路地裏ばっかり通るなよ。もっと表通り歩いて、これからは帰ってこい」
「う、うん。そうする」
「それと……。」
まだあるの?
「怪しいと思ったら、誰でもいいから携帯で電話しろ。携帯で電話してると、電話の相手にすぐ知られると思って相手も躊躇するから」
「うん、わかった」
これじゃ、何だか和磨の方が年上みたいだよ。
「さてと。おばさん心配してるといけないから、送ってくぞ」
「うん」
何だか和磨が本当に男らしく見えて、先ほどまでの不安定だった気持ちも落ち着いていた。
「いつまで抱きついてんだよ。いい加減、離れろ」
はぁ?
「な、何言ってんのよ。和磨。アンタが先に……」
突き飛ばすようにして、和磨から慌てて離れた。
「オレンジ」
エッ……。
「珠美。随分、ド派手な下着付けてんだな」
嘘っ。見られた?
「和磨!アンタどさくさに紛れて、何見てんのよ。エッチ。変態。エロキング」
信じられない。さっき、ほんの少しでも男らしいと思った自分が嘆かわしい。
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