婚活
「事故だよ、事故。だって見えたんだから、仕方ないだろ?」
えぇい。忌々しい奴め。
部屋を出て階段を降りながら、和磨が後にいる私を向かって言い訳している。
「変態……。和磨。アンタの頭の中って、エロしかないんじゃないの?」
言いながら後から和磨の後頭部を叩いたが、こんな時でないと背の高い和磨の頭を叩けない。
「何だそれ?飢えてる珠美だけには、言われたかねぇよ。俺はいくらでも受け皿あるから、自己処理しなくても大丈夫なの」
受け皿って……。自己処理って……。
「和磨!」
「ほらっ、行くぞ」
まったく、和磨は正真正銘のエロ大魔神だな。
「お邪魔しました」
一応、奥に居るおばさんに声を掛ける。
「珠美ちゃん、もう帰っちゃうの?近いんだから、晩ご飯食べていけばいいのに」
「ありがとう、おばさん。今日はもう遅いので、また今度伺いますから」
和磨の家を後にしたが、何だか暫く会わない間におばさん年取ったなぁと感じていた。ということは……。それだけ、私も歳喰ったって事だよな。
「和磨。おばさんって、幾つ?」
「お袋?え~っと……。俺を産んだのが30の時だって、いつも言ってるから59か?」
そうなんだ。59かぁ……。和磨は長男だから、そんなもんなのかな。家のお母さんは、それより少し早く私を産んだから、今年確か54だし。
「最近、お袋の口癖は、早く孫の顔が見たいだもんなぁ」
プッ。和磨ったら、珍しく何だか普通の息子の一面見せてるよ。
「受け皿たくさんあるんだったら、その中から早く選んで結婚すればいいでしょ?選り取り見取りで、引く手あまたなんじゃないの?」
思いっきり、嫌味っぽく言ってやった。
「あのなぁ……。遊びと結婚は、別物なの」
はい?
遊びと結婚は別物って、何だそれ?
「はい、はい。モテる男は、言う事もビッグ・マウスで結構ですこと」
ちょうど玄関の前に着いたので、勢いよくドアを開けた。
「ただいま。和磨も上がって、ご飯食べてけば?」
「おかえり。遅かったわ……。あらっ。和君も一緒だったの」
「こんばんは」
玄関に出てきたお母さんが和磨の姿を見てにっこり笑ったが、次の瞬間、その笑顔が一瞬にして消えていた。
「どうしたの?珠美。その足は」
あっ……。
流石、母親だな。すぐに、気付かれてしまった。
「あぁ、これっ?これは……」
まずいなぁ。言ったらきっと、心配するだろうし。
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