婚活
昨日の事を思い出すと、やはりまだ怖い、仕事帰りの駅からの帰り道、なるべく表通りを通って家に曲がるところだけ路地を入って家の玄関まで急ぐ。ドアを開けて、ホッとしている自分がいた。当分、このトラウマに取り憑かれるのかな。毎日の事だから、仕方がないが……。会社からの帰り道の不安を抱えながら土曜日を迎え、朋美と私、小林さんと加納さんはこの前と同じ場所で待ち合わせをしていた。
「珠美。今日はさぁ、お互い別行動しない?」
エッ……。
「別行動?」
「そう。その方が、お互い落ち着いて相手を観察出来るじゃない?」
「まぁ、そうだけど」
朋美の言ってる事も、一理あるとは思う。
「きっと向こうだって、男同士だけど別行動だったら気兼ねなく自分のペースでいけるから、そこで男二人の本性というか素が見られるような気もするのよね」
凄いな、朋美。そんな事まで、計算尽くなんだ。
「そうだね、わかった。いいよ」
「それじゃ。会ったらその場でお互い解散って事で」
朋美には、ホントに感心しちゃうよ。結構、真剣に考えてるんだな。小林さんの事、違った目で見てみようと前向きに考えてる。それに比べて、私ときたら……。
「こんにちは」
小林さんと加納さんはもう待ち合わせ場所に来ていて、いち早く見つけた朋美が駆け寄っていくのを見て慌てて朋美の背中を追った。
「こんにちは」
「どうも……」
加納さんは相変わらずの短めの挨拶で、その後すぐに朋美が何やら小林さんと加納さんに先ほど私に言った事と同じように二人に説明している。
「珠美も了承済みなんで、加納さん。よろしくね」
うわっ。
朋美ったら、何余計な事言ってんのよ。
「小林さん、行きましょうか」
ありゃ……。完璧、小林さんを朋美がリードしてるよな。
「何処か行きたいとことか……ありますか?」
エッ……。
朋美と小林さんの後ろ姿を見送っている私に、加納さんが話し掛けてきた。
「あぁ……。いえ、特にないですけど。加納さんは、何処かありますか?」
朋美と小林さんが去っていった方向から、視線を加納さんに移す。
「海でも、見に行きましょうか?」
海?
久しく、海なんて行ってないかも。
「いいですね。行きましょうか」
「そうしたら、僕の家ここから近いので車で行きませんか」
「車……ですか?」
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