婚活

加納さんは、私に何が言いたいのだろう。さっぱりわからない。気まずい雰囲気になってその後殆ど会話はなくなり、帰りの電車の中ではお互い無口になってしまい、送ってくれると言われてこの間の事もあったから何となく気が引けたけれど、素直に送ってもらう事にして、駅からの帰り道は加納さんの学生時代の話を聞いていた。
「あっ、そこです。すみません。送って頂いて、本当にありがとうございました」
「いえいえ……。そうだ。これ、僕の携帯の番号とアドレスです。良かったら」
きっとこういう場合、差し出された紙を受け取った方がいいんだよね。
「ありがとうございます」
差し出された紙を両手で受け取り、そこに書いてある文字と数字の羅列を何となく眺めていた。
「初対面に近い僕にあんな事言われてきっと憤慨されてると思いますが、もっと自分を見つめ直された方がいいと思います」
加納さん。
「僕は、そんな沢村さんの手助けが少しでも出来たらいいなとも思っています」
エッ……。
「どういう意味……ですか？」
「ハハッ……。そういう意味ですよ。また気が向いたら、連絡して下さい。いつでも相談に乗りますから」
「あの、加納さん」
「おやすみなさい」
「あっ、お、おやすみなさい」
路地を曲がっていく加納さんの後ろ姿に、温かい感情とともに捉えられない心を見た気がした。
加納さん。何、考えてるんだろう。掴めな……。
「男って、何考えてんのか全然わかんなぁい」
はぁ？
上から声がして、見上げるとベランダの手摺りに寄り掛かり和磨がタバコを吸いながら下を覗いていた。
あの野郎……。
「和磨！何、覗き見してるのよ。質悪い」
「偶々タバコ吸ってたら、珠美が歩いて来たんジャン。別に、そんな趣味悪い事してねぇよ。それより誰だ？あいつ」
「和磨には、関係ありませぇん。べぇ～だ」
思いっきり、舌を出してやる。
「そんな顔してると、皺になるぞ。珠美。曲がり角、過ぎてんだろ？」
うっ。それを言うな。それを……。でもそんな事、今は知るか。
「ただいまぁ」
「おかえり。ご飯は？」
「食べる、食べる。今、着替えてくる」
階段を駆け上がり部屋に入って着替えながら、ふと加納さんの言葉を思い出す。
―沢村さんは、本当に結婚したいと思ってますか？―