婚活
断る理由はないけれど、何だか気が進まない。何でかな。加納さんとも中途半端な感じで、宙ぶらりんな自分の置かれた立場というか、ある意味身から出た錆ともとれるけど……。本当に、何処にいるのやら。私の心の拠り所となる、未来王子。
「それじゃ、金曜日。終わったら、携帯にメールくれるかな。その時間によって、待ち合わせの場所は決めよう」
「はい。よろしくお願いします」
「それじゃ」
熊谷さんと別れ、足早に会社に戻る。結局、また会う事になっちゃったよ。何やってんだろう私……。加納さんにしても、然り。熊谷さんに至っては、返事もまだ出来ずじまい。私って、こんな優柔不断な人間だったっけ。加納さんにも言われたけど、結婚する気が本当にあるんだろうか。あるよ……。だからこそ、相談所に登録して本格的に婚活しようと決心したんだから。朋美は小林さんと当初の結婚という人生の一大イベントよりも、今を二人で謳歌している感じだし、由佳は由佳で今の彼氏との先の見えた恋愛にピリオドを打つべく、次の相手を物色中だが焦ってはいない。そして私は……。当初、みんなで申込に行った時とさほど変化はないけれど、冷静になって考えてみると脱、実家宣言。そんなような感覚だったのかな。説破詰まっている立場には、本来なかったのかもしれない。取り敢えずランチを食べて、熊谷さんに会う金曜日までにせめて方向性だけでも練ろうと家に帰ってご飯も食べてお風呂も入ってから、部屋に籠って帰りに買ってきた真新しい ノートを開いた。ノートなんて買ったのは、何年ぶりだろう。ふと思い立ってこれからは計画的に振舞おうと考え、婚活の日誌とまではいかなくともスケジュールなど思いついた事や画面のチェックした未来王子の事などを付ける事に決めた。
そして迎えた金曜日。そんな気合いとは裏腹に考えあぐねた結果、熊谷さんの事はまだ保留という結論に達して、故に未だ決めかねてるという事は、それほど好きなんじゃないんだと思えて断る決心を固め、仕事が終わってからメールをして教わった待ち合わせの場所へと向かった。ごく普通に食事をしながらの会話を楽しみ、食事も終わってからの帰り道、言う機会を窺っていて今しかないと思った駅のホームで熊谷さんに切り出した。
「あの、先日のお話ですが……」
まともに、熊谷さんの顔が見られない。後ろめたい気持ちからだろうか。でも、何が後ろめたいのだろう……。
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