婚活
「遠慮なく、言ってくれていいから」
熊谷さん。
「ごめんなさい。私……」
「わかった。ありがとう」
エッ……。
「悩ませてしまって、悪かったね」
「いえ、そんな……」
家まで送ってくれるという熊谷さんに、ここでとホームで頑なに断ったが熊谷さんも譲らず、結局、家まで送ってもらう事になってしまい、それからもう熊谷さんは付き合う話などはなかったかのように楽しい話を沢山聞かせてくれて、駅から道どうなるかと思ったが暗くならずに済んでホッとしていた。
「あっ。そういえば、そこを曲がってすぐの家が、和磨の家なんですよ」
二階の和磨の部屋が見え、何気なく指をさして熊谷さんに教えた。
「そうなんだ。ホントに家近いんだね」
「そうなんですよ」
曲がらず真っ直ぐ行く熊谷さんと私は、和磨の家に曲がる道をチラッと横目で見ながら通り過ぎようとしたら、家の前に和磨の姿が見えた。
エッ……。
そして次の瞬間、私の目に飛び込んできたのは……。和磨が知らない女性とキスをしているところだった。
「君が言ってた事は、本当だったんだね。白石には、ちゃんと彼女居るんだ」
和磨……。
「そ、そうですよ。だから言ったじゃないですか」
せっかく気づかれないよう熊谷さんが小声で言ってくれたのに、焦って熊谷さんに言い返した私の声は思いの外大きく響いて和磨に聞こえてしまい、女性から唇を離し、驚いた顔をして和磨がこちらを見ている。何秒間かのほんの僅かな時間なのに、随分、長い間和磨と目が合っている気がした。
「行こうか」
エッ……。
「あっ、はい」
熊谷さんに絆されるようにして、また家に向かって歩き出す。
和磨。やっぱり、あんたは手が早いよ。何故か今、無性に苛立っている。
「熊谷さん。さっきの話なんですけど……」
歩みを止めて、熊谷さんを見上げた。
何?というそんな疑問符を頭の上に付けてるような表情で、熊谷さんが私を見ていた。
「こんな事、熊谷さんに言うのはお門違いかもしてませんけど、私……。もっと自分を磨いて、真剣に婚活頑張ります」
「ハハハッ……」
何で笑うの?
いきなり熊谷さんが、天を仰ぐように上体を反らせながら高らかに笑った。な、何か変な事、言ったのか私。
「また俺はそこで白石のキスシーン見ちゃったから、気が変わってやっぱり俺と付き合うとでも言ってくれるのかと思って期待しちゃったよ」
はい?
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