婚活
階段を上りかけていた裕樹が、振り返りながら迎えてくれた。やっぱり、家族っていいな。ただいまと言えば、誰かしら必ず返事をしてくれる。それが当たり前になってしまってるから、絶対私には独り暮らしは無理だと今更ながら思ってしまう。独り暮らししたいとか昔は思ったけど、今となってはそんな事思いもしないもの。家賃があるし、光熱費やら食費やら……。経済観念ないから貯金もすぐに底を尽きて、1ヶ月暮らせないかもしれない。疲れて帰ってきてから自炊とか無理そうだし、外食ばっかりではお金が続かないし。今が、いちばんいい。実家で暮らしながら、上げ膳据え膳好き勝手にやってる毎日。だけどそれじゃいけないと、今日も切実に熊谷さんと話してて考えさせられる部分も多かった。今となっては当初の目的とは違っちゃったけど、由佳が今の彼氏と半同棲みたいな事を 始めたのは、結婚へのステップとしての予行演習みたいなもの。実際、暮らしてみてずっと一緒にいればお互いの嫌な部分、新たな発見、その他いろいろ得るものが多いからと、由佳は敢えて実家を出て独り暮らしを始めた。でも結果的に、彼氏はいずれ田舎に帰る意思がある事を由佳は知り、先の見えた恋愛になってしまったと本人は言ってるけど……。本当にそんな事でといったら失礼だが、それでキッパリ別れられるのだろうか。結婚する直前に半同棲とかしてみるのも、あながち悪くはないと思う。どうしたって結婚は、お互い育った環境も違うし他人同士が一緒になる訳だから、自分ではそれが当たり前だと思っても、相手にとっては驚くべき事だったり……。食事にしてもそう。嗜好が違ったりもするし、味付けでよく 夫婦げんかになるとも聞く。夫の母親。つまり、姑の味付け=お袋の味みたいに思ってる相手にとって、マザコンまではいかないにしてもそれが普通と思われてしまっていると、妻は妻で自分の母親の味付けに慣れていてそれと同じように作ったのに、濃いだの、薄いだの、違うだのいろいろ言われたら正直へこむ。否定され続けたら、たまったもんじゃない。そんな小さな些細な衝突を回避するためにも、結婚前の半同棲とかは必要なのかもしれないとも思う。ただ好きだの、愛してるのだけじゃ一生添い遂げられないのも、もうこの歳にもなればじゅうぶんわかっている。それからすると、由佳の言ってた理想の男性像をもう一度見直さなきゃな。結婚は、ままごとじゃないんだから
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