婚活
「そんな、せんべいばっかり喰ってると太るぞ。せんべいは元は米だし、血となり肉となりなんだから」
「大きなお世話ですぅ」
おせんべいを口に咥えて、向かい合って座っているのも癪なのでソファーに移動した。
「おじさんと、おばさんは?」
「温泉行ったよ」
和磨もコーヒーを飲み終わりソファーに勢いよく座ったので、その反動で身体が揺れる。
「昨日、熊谷さんに会ってたんだな」
あっ……。
和磨の言葉で、昨日の事を思い出した。
「そうよ。いけない?」
「……」
「そんな和君だって、思いっきり公衆の面前でいい事してたじゃない?あれは何番目の彼女?それとも本命?あっ。あの後、おじさん、おばさん公認で和君の家に泊まったとか?」
「勝手に一人で言ってろ。帰る」
和磨……。
見上げる私を立ち上がった和磨が、鋭い目で睨んでいた。
「玄関の鍵、締めろよ」
「……」
「帰るから。俺が出たら、玄関の鍵締めろって言ってんの」
「和磨」
立ち上がって、和磨と向き合う。外では気付かなかったけど、こうやって向き合うと和磨とこんなに身長差があったんだ。
エッ……。
和磨が私を無理矢理ソファーに座らせ、自分もまた勢いよく隣りに座った。
「お前。一人になるのが、怖いんだろ?」
「和……」
いきなり和磨が、ソファーに私を押し倒した。
「ちょ、ちょっと和磨。何するのよ」
「俺が居た方が、もっと怖いかもよ?」
和磨……。
押し倒された私は、真上にいる不適な笑みを浮かべた和磨と、かなり至近距離で視線を交わしている。このままどうかなっちゃうとか……ないよね。
「ブハッ」
しかし、いきなり和磨が笑い出した。
「馬鹿じゃねぇの?何、真に受けてんだよ」
「和磨」
「俺にも選ぶ権利があるって事、珠美忘れてんだろ?」
はぁ?
「あんたね。人をからかうのも、大概にしなさいよね。ふざけないでよ、まったく……。とっとと帰れ」
「言われなくても、帰るから」
和磨が玄関に向かって歩き出したので、和磨の後ろ姿を見ながら玄関まで付いていき、ふと年上だったらなぁ……などと、詮無い事を考えていた。
「そうだ」
うわっ。
玄関で靴を履く前にいきなり和磨が振り返ったので、危うくぶつかりそうになり、咄嗟に 仰け反ってしまった。
「な、何よ」
「コーヒー、上手かった」
和磨……。
ピンポ~ン!
エッ……。
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