婚活
リビングに熊谷さんを案内しつつ、何でこんな展開になったんだろうと首を傾げながら、先ほど和磨に入れたコーヒーの残りがまだコーヒーメーカーに残っていたので、それを熊谷さんに出すことにした。
「お構いなく。話しをしに来ただけだから」
その話しが私にしてみれば、何だか怖いんだけど……。
「お話って、何でしょうか?」
付き合う話しは、昨日きちんと断ったはず。
「今日、人差し指の彼女と別れてきたんだ」
エッ……。
「別れたというか、元の生活に戻ったというか」
熊谷さんは、悲痛な表情を浮かべている。
「大丈夫ですか?」
「あぁ。まだ実感が湧かないからかもしれないが、10年以上の付き合いだったから……」
10年以上だなんて、とても長い付き合いだったんだ。それなのに、何故?
「付き合いと呼ぶには、不謹慎なのかもしれない。僕は夫のある人と、不倫関係にあったから」
「熊谷さん……」
不倫関係で10年以上って、いったい何歳の時からそんな関係にあったんだろう。
「僕が、大学時代の頃からの付き合いだったんだ。その頃からすでに彼女は結婚していて……」
それでなんだ。それで、親指と人差し指の関係。熊谷さんが歩み寄らなければ、上手くいかないってそういう事だったんだ。
「君に付き合おうと言っておきながら、そんな関係を続けていた自分が昨日恥ずかしくなってね。君が真剣に前向きに婚活すると聞いて、楽な中途半端な道を選んでしまっている自分が情けなく思えてさ」
「いえ、そんな……」
「発展のない恋愛をしていても得るものは快楽だけで、それ以上のものはないと自分でわかっていながら行動に今まで移せなかった。だが、今日やっとピリオドを打つ事が出来たよ」
それは良かったですね……とは言い難い。不倫は、やっぱり駄目だよ。相手の女性もどうかと思うけど。という事は、そんな人が居たのに私と付き合おうとか、キスしてきたりしてたなんて、言ってる事とやってる事がおかしいじゃない。
「君にも、本当に中途半端な事をしてしまったと思ってる」
「いえ……。もういいですよ」
半ば少し呆れ気味に、返事をしていた。熊谷さんは、身勝手だな。不倫していながらも、自分の本来の恋愛相手を探していたわけ?二兎追うものは、一兎も得ず。まさに熊谷さんが、それを地で行っていたのだ。
< 57 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop