婚活
「ごめんなさい……。私、よくわからないんです。結婚したい願望はあるんですけど、今の生活は崩したくないっていうか……。だから、切羽詰まっているというわけではない感じなんですよね」
「……」
うわっ。
黙っちゃったよ。また、まずい事言っちゃったかな。
「僕は、どうしても今年いっぱいに結婚しないといけなくて」
はぁ?
「何でまた、今年いっぱいに結婚しないといけないんですか?」
結婚に、期限なんてあるものなんだろうか。
「来年、出向が決まってるんですよ。なので、出来たら所帯を持って行きたいんです」
あぁ……。それで、今年いっぱいという期限があるんだ。だとしたら、本当に切羽詰まってるって事ジャン。
「そうなんですか。それだとしたら、ごめんなさい。私じゃない方のほうが、いいかもしれませんね」
「沢村さん」
出向のために無理矢理結婚するみたいな感じがして、申し訳ないがその時点で無理だ。
「ごめんなさい……。期限が迫ってると、言われてしまうと……」
「そうですか。残念です」
こういう時って、やっぱり意思表示はきちんとした方がいいんだと思う。お互いのために……。
「それじゃ……」
まだ時間はあったが、これ以上話していてもお互い進展はないとわかっていたので挨拶を交わし、部屋を出て担当者に連れられて別室に移った。今回は、ご縁がありませんでしたとだけアラ・フォーの女性に告げる。
「最初は、そんな感じでいいんですよ。 練習のつもりで」
しかし、あっさり事務的に言われてしまい、後味の悪さだけが残ったまま重い足取りで相談所を後にした。来るときの意気込みは何だったのだろう……。男にも、いろいろ事情があるんだな。電車内でサラリーマン風の男性をぼんやり見ながら乗っていた。
駅からの帰り道、まだ夕方だったので本屋に寄ると、結婚関連の雑誌も最近はだいぶ増えていていろいろ良いことばかりが書いてあるが、実際、今日の事でまだ一回目だというのにすでに萎えてる自分がいて買おうかどうか迷ったが、気持ちを奮い立たせるためにも結局、婚活攻略本なるものを買って本屋を出た。果たして参考になるかどうか、本に書いてある事と実際とではかなりケースバイケースのような気もするが……。
あれっ?
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