婚活
「えっ?あ、あの……。家の前はちょっとまずいので、そこで待ってて頂いてもいいですか?」
「了解。それじゃ」
バッグを持って行くのも面倒だったが、取り敢えず持って階段を駆け下りながら考えていた。親に、何て言おう。こうなったら出たとこ勝負だと開き直り、リビングに向かうと何故か全員顔を揃えている。言いづらいなぁ……。
「珠美。何?また出掛けるの?」
うわっ。お母さん、鋭いな。
「う、うん。友達がそこまで車で来てるから、ちょっと行ってくるね」
「あまり遅くならないように、早く帰って来なさいよ」
「はぁい。行ってきまぁす」
良かった。突っ込まれなくて……。裕樹も和磨もテレビの格闘技に見入っていて、話しも聞いていない感じだった。
きっと母親にしまわれてしまっただろう、先ほどまで履いていた靴をシューズボックスから出し履いていると、後から人の気配を感じた。
「そこまで、一緒に行く」
和磨。そこまでって……。熊谷さんが来てる事、和磨にバレちゃうじゃない。
「そ、そぉ?私急いでるから、先行くね」
玄関のドアを勢いよく開けて門扉を開き、どうせ和磨が後から来ると思って開けっ放しのまま早足で歩き出した。
「待てよ!」
後から、和磨に腕を掴まれた。
「な、何よ」
「誰と会うんだよ?女じゃないだろ、そんな格好してるとこ見ると」
うっ。
「誰だっていいでしょ?和磨には、関係ないんだから」
「熊谷さん……か?」
「……」
なんて鋭いヤツなんだよ、和磨。
「そ、そうよ。いけない?和磨の上司でもある熊谷さんに、これからお会いするんですぅだ」
こうなったら、目一杯嫌味っぽくカミングアウトしてやる。
「珠美。行かない方がいい」
エッ……。
和磨?
何?その真剣な眼差しは。
「な、何でよ」
「前にも言っただろ?熊谷さんは……」
「何よ?言ってみなさいよ、和磨。だいたい最初、画面の未来王子より熊谷さんの方がいいっていったのはあんたなのよ?それなのに、そのうちわかるだとか、今度は何?行かない方がいいとか、わけわかんない」
和磨の手を振り解きツカツカと歩き出したが、しかし和磨の足音は後から聞こえてくる事はなかった。

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