婚活
「この前、俺の家の前であんたと珠美が見た女。覚えてるか?」
和磨の家の前で、会った女……。
あっ。あの和磨がキスしてた、今日和磨が駅まで送っていったあの子?
「覚えてないとか、知らないとは言わせない。システム担当の田辺愛子」
「……」
システム担当の田辺愛子。知らなかった。あの子はうちの会社の子だったんだ。和磨。あの子がいったい……。
「散々、毎晩のようにあんたに弄ばれた挙げ句、二週間で捨てられたそうだ。それからあんな風に、誰とでもすぐ遊ぶ女になったらしい」
そんな……。熊谷さんの顔を見たかったが、和磨の背中が邪魔をして見えない。
「俺に、全部話してくれたよ。あんたは、田辺があんまりしつこいからって捨て台詞のように言ったらしいな。俺は、自分の会社の女の百人斬りを目指してるとな」
嘘だ……。熊谷さんって、そんな人なの?
「聞けば、田辺の同期も同じように、あんたに捨てられたらしい」
「……」
熊谷さん。何で黙ってるの?どうして反論しないのよ。認めたって事?
「そんな事がわかった以上、あんたに珠美は渡せない」
和磨……。
「沢村さん。何か白石が言ってるが、信じる、信じないは君の勝手だ」
「熊谷さん」
何故、そんな冷静でいられるのだろう。和磨の言ってる事が嘘だから?
ううん。和磨がここまではっきり言うって事は、嘘じゃない事ぐらい私にもわかる。まして、自分の直属の上司に向かってここまで……。
「来るか、来ないかは、沢村さんが決めてくれ」
「……」
このままだといくら仕事中じゃないとはいえ、和磨の地位は危なくなるのかな。
「珠美。俺の事は、心配しなくていい」
エッ……。
「どの道、今回の事がなくても、遅かれ早かれこうなってたと思うから」
和磨。
昨日、今日、知り合いになったわけじゃない。昔から知っている和磨を信じるのは、当然といえば当然。どちらを選ぶかなんて、最初から答えは決まっている。
「熊谷さん。ごめんなさい、私……。車には乗れません」
言っちゃった……。
「そう。時間の無駄だったな」
エッ……。
「沢村さんなら俺の事、理解してもらえると思ったんだが……」
熊谷さん。
「往生際の悪い男だな。早く行けよ」
「和磨」
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