婚活
「もったいぶってないで教えてよ。だいたい、何で和磨がそんな事まで知っ……」
あっ。
「何だよ」
もしかして、あの田辺という子から聞き出した?でもその田辺という子と和磨はキスしてた。という事は、和磨は……。
「和磨。あの田辺って子と何でキスしてたの?まさか、あんた……」
「ハハッ……。そのまさか、かもな?」
和磨は熊谷さんの情報を聞き出すために、あの田辺って子と……。
「和磨。あんたも最低!あの子から情報聞き出すために……」
「お互い遊びと割り切ってたんだから、構わないだろ?」
お互い遊び?
「あの田辺って子は夜の商売もしてる。もうじき会社も辞めて、そっちで稼いで行くと自分でも言ってるぐらいだから……。そうじゃなきゃ、俺だって手は出さない」
「……」
何だか複雑な思いが交錯していた。同じ女として少しでも同じ男に関わって、私は運良く 和磨に助けられたからそんな酷い捨てられ方はされなくて済んだけど、でも実際そんな風にして男に捨てられる女も世の中には沢山居るわけで……。
それからは無口になってしまい、殆ど会話もないまま車のエンジン音だけが車内に響いている。和磨もそんな私を察してか、話し掛けてくる事もなかった。
「着いた」
エッ……。
周りが真っ暗で、何処に着いたのかまったくわからない。何処かの駐車場だということが わかるぐらいだ。和磨がドアロックを解除して運転席から降りたので、慌てて助手席から降りた。
あっ。車に乗ってる時には気づかなかったが、降りた途端、潮騒の香りと波の音がして心地よい風が髪を靡かせている。
「この下は、すぐ海だぜ」
「ホント?」
防波堤に和磨が手を突いて飛び上がって座ったので、真似をして手を突いて上がろうとしたが勢いが足りなかったのか、和磨が腰を引っ張って手助けをしてくれた。
「ホントだ。真下は海なんだ」
和磨と二人、海の方を向いて座りながら暫く黙ったまま、夜の海を眺めている。周りには 誰も居ない。波の音だけが響き、防波堤に座って頬を撫でる風を感じる。暗くて良く見えなくとも、たまに白波が立ち、沖合に船が浮かんでいるのが見える。空と海の境が闇夜に紛れて区別がつかない世界。見上げた夜空には、半月の明かりがぼんやりと暗い紺碧の海を照らしていた。
「男って、何かわからない生き物だよね」
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