婚活
昼間なら、眼下に広がる海を想像しながら気持ちも大らかになったせいか、ふと、そんな言葉を漏らしていた。
「そっくりそのまま返してやるよ。俺に言わせると、女は難しい生き物だよ」
「そうかなあ?男の方が変な拘りとか、プライドとかあって、ややこしいんだけど?」
男には男の、女には女の、それぞれ言い分があるのかな?
「空と海のようなもんなんじゃねぇの?」
「空と海?」
「太陽と月とかさ。要はお互いになりたくてもなれないものだからこそ、理解できない部分も多い。だからこそ惹かれ合うんジャン?」
和磨……。
それから暫くまたお互い黙ったままだったが、不思議と苦痛には感じず、波の音と潮騒の香りに包まれながら時を忘れてボーッとしていた。
「珠美が、あの男の餌食にならなくて良かったよ」
ぼそっと、和磨が言いながら私を見た。
「でも……和磨。来週からどうするの?熊谷さんと気まずくなっちゃって、困るんじゃない?」
「全然。俺、会社辞めるから」
エッ……。
「会社辞めるって、和磨。簡単に言わないでよ」
いきなり突拍子もない事を言い出した和磨の腕を、驚いて掴んでしまっていた。
「俺、教師になるんだ」
「教師?」
「教員採用試験に受かってただろ?だけど採用がなくて、そのまま今の会社に入ったけど、 この前連絡があってさ。二学期から産休に入る先生がいて、最初はその交替要員としての採用だったんだけど、その先生がそのまま辞める事になったから正式に採用される事になったんだ」
そうだったんだ。和磨は教員になりたいって、そう言えば昔から言ってた気がする。熊谷さんに言った、遅かれ、早かれというのは、そういう意味だったのか。
「教師はいいぞお。ピッチピチの若い女子がいっぱいだしさ」
はぁ……。せっかく初志貫徹で偉いなと思ってたのに、そんな不純な事言ってるし……。でも会社辞めちゃうんだ、和磨。
「何処の学校?」
「青川学院」
うわっ。近いから通うのも楽そう。それにしても、また優秀な学校で……。
「じゃあ、あとちょっとで会社辞めちゃうんだ」
「そういう事」
何となく、殆ど社内では会うこともなかったが、和磨が辞めちゃうのは少し寂しい。
「珠美はさ……。もう少し、男に対して疑ってかかれよ?」
何、急に。
「あの男の事はともかく、他の画面の中の未来王子だっけ?」
バ、バレてる。
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