婚活
ガラス張りのバスルームを見ると、端の方にカーテンが備え付けてあるのが見える。何でそんなに詳しいのよ、和磨。
「帰るか」
「えっ?」
立ち上がった和磨がお財布からお金を出し、小さな小窓を開けて取り出した。筒の中に、お札を入れようとしている。
「待って、和磨」
咄嗟に和磨の傍に駆け寄り、その手を押さえた。
「何だよ。別に珠美に金払ってもらおうとか、思ってないから」
「そうじゃない。そうじゃないの」
「……」
和磨から筒を取り上げ、元の位置に戻す。
「私、お風呂に入って温まってくる」
「珠美……」
「和磨。絶対見ないでよ。わかった?」
「チッ!そんな趣味ねぇよ」
わざと戯けて見せながら、実際はもの凄く緊張してる私……。本当は和磨だって男だし、こんなところでお風呂に入る事自体、もし親が知ったら悲しむに決まっているけれど、それでもどうしてもこのまま帰る事は、私には出来なくて……。何でかな?和磨のさり気ない優しさを、無にしたくなかったからかもしれない。
そっとカーテンを引きながらお風呂から部屋を見ると、和磨がベッドに横になりこちらに背を向けていた。
和磨……。
お風呂に入るのに、こんな緊張した事はないというくらいドキドキしながら服を脱ぎ湯船に浸かる。じんわり足の方から身体が温まってきて、冷え切っていた身体が心地よくなってくる。まだ9月の終わりなのに、海辺の風にずっと当たってると冷えるんだな。そんな事を考えながら身体がポカポカになり、お風呂から出て服を着てからまたそっとカーテンを開けると、和磨は先ほどと同じ体勢のままだったので、バスルームから出てベッド脇に向かった。
「和磨。お待たせ」
「うーん……?」
和磨が眠そうな顔をして、寝ながら私を見上げている。
「和磨?」
「何だよ。人がいい気持ちで寝てたのに」
まさか……。
「和磨。あんた何やってんのよ」
ふと見ると、ベッドサイドに缶ビールが2本も転がっていて、飲みかけの缶ビールがもう1本置いてあった。
「待ち疲れて飲んだ」
「信じられない……。和磨。私、運転出来ないのは知ってるでしょ?それなのに、なんでビールなんか飲んでるのよ?」
今更ながら、お風呂に入った事を後悔した。何で……。どうしてこうなるのよ。和磨に悪いとか思ったのは自分だが、それにしても、和磨は何でビールなんか飲んじゃうのよ。
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