婚活
「珠美。今夜は泊まって明日の朝帰ろう。ほらっ、隣り来いよ」
毛布を捲った拍子に、はだけたバスローブから見える和磨の胸にドキッとしてしまう。
「い、いいわよ。私……タクシー呼んで帰るから」
「珠美?お前、ここから幾ら掛かると思ってんだよ」
「……」
そんな事は考えてもみなかった。だけど……だけど、やっぱり駄目だよ。
「いいから寝ろ。何もしねえから」
したら困るわよ、和磨。それこそ、とんだ騒ぎになる。
「うわっ。ちょ、ちょっと和磨。何するのよ」
立っていた私の腕を和磨が掴み、ベッドに引きずり込んた。
「大人しく寝ろ」
和磨……。
飲みかけのビールを一気飲みすると、和磨は私に背を向けて寝てしまった。何でこんな事になったのよ。だいたい和磨が……否、私がお腹痛くなったのがそもそもの原因で、和磨のせいじゃない。だけどお風呂で温まってるうちに和磨がビールを飲んじゃったのは、明らかに和磨の落ち度だよ。仰向けに寝ながら天井を見ていたが、気になってすぐ隣りに寝ている和磨の背中を見た。何でバスローブ姿なんだろう?でも何となく、そんな和磨が憎めなくて微笑ましく思えてしまう自分がいる。裕樹と同い年で、あんな子供だった和磨がいつの間にか大人の男になっていて、今、自分の将来を見出し、会社を辞めて教師になろうとしている。動機は不純で、サンダル履きに憧れたとか言ってたけど、それも和磨らしいな。
「クスッ」
思わず微笑んだ拍子に、声に出てしまった。
「何だよ?」
うっ。和磨に気づかれた。まだ起きてたんだ。
「な、何でもない」
「何、男の寝姿見て笑ってんだよ」
いきなり振り向いた和磨の度アップの顔に、咄嗟に身体を後の引いて離れる。
「珠美。眠くないのかよ?」
エッ……。
そう言えば、何だか興奮してるせいか全然眠くない。
「久々に男の隣りで寝てるもんだから、興奮して寝られないのか?」
「久々って何よ、久々って」
すると和磨が不適な笑みを浮かべ、寝ながらタバコに火を付けた。
「寝タバコは危ないって、和磨」
「寝てないから大丈夫だって、珠美。前に別れた男以来、男いないだろ?」
な、何でそれを知ってるのよ。
「い、いいでしょ、別に。もう寝る」
横向きになりながら、和磨に背を向けた。すると。背後から和磨がタバコを灰皿に押し付ける音が聞こえ、ベッドマットが少し揺れて背中越しに和磨の気配を身近に感じた。
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