婚活
「まさか、そのお馬鹿なお姉ちゃんって、私の事じゃないわよねぇ?」
ムッとしながら聞き返した。
「珠美以外、誰が居るんだよ。馬鹿じゃねぇ?」
「お言葉ですけど、和磨が海行こうって言い出したんでしょ?」
信じられない。全部私のせいみたいに言わないでよ。
「だいたい、和磨は勝手過ぎるわよ」
「何がだよ?」
和磨がホースを地面に置き、水道の蛇口を閉めると、スポンジに車用洗剤を付けて車のボディを洗い出した。
そうだ。和磨とこんなところで、言い合いしてる場合じゃなかったんだ。
「和磨。ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「何だよ?」
「あのさ……」
言い掛けたその時、けたたましく和磨の携帯が鳴り出し、慌てて石鹸だらけの手を水道の蛇口を捻り水で洗うと、和磨は急いで電話に出た。
「もしもし。おぉ、久しぶり。メール見た……あぁ……そうなんだ。三学期からなんだけどさ。急に決まってウルトラ忙しいから今は……うん……もしもし?もしもぉし」
な、何? 
「切れちゃった……」
誰?今の電話の相手。和磨のテンションが妙に高かったけど……。
「また掛かってくるか。で……何?珠美の聞きたい事って」
和磨がタオルで車の窓を拭きながら聞き返してきたが、窓ガラスを拭いているので視線は合う事はなく、何となく聞きづらい。
「あのさ……。この前、和……」
すると、また携帯の着信音が鳴ってしまった。
「おっ。また掛かってきた。もしもし。お前、何で切るんだよ。電パゲか?ハハハッ……そうそう……今?家の前で洗車してる。もうすぐ終わるけど……あぁ、いいよ……了解。16時頃な。近くまで来たらまた電話しろよ。あぁ、気を付けて来いよ……何言ってんだよ久美子……えっ?だって教員採用が最初っから……」
長くなりそうだから、もう行こう。何だか会話を聞いてるみたいで嫌だったし、お前とか 久美子とか……。誰?和磨の彼女かな?やけにテンション高かったし。まぁ、熊谷さんの事はもう結論は出てるし、和磨に相談する事でもないか。電話してる和磨にそっと手を振り、その場を離れて足早に歩き出す。
「珠美」
後から、和磨の呼び止める声が聞こえた。ふぅっと口を窄めて息を吐き出し、後を振り返る。
「話し途中だろ?」
和磨……。
「もういいのぉ。気にしないで」
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