婚活
私の声に、和磨に背中を向けていた熊谷さんが後を振り返った。
「よぉ白石。お前とは、休みの日までよく会うな」
何か、嫌味っぽい言い方。
「珠美。何やってんだよ、こんなところで」
和磨はそんな熊谷さんの言葉を無視して、私の方へと一歩歩みを進め問い質した。
「白石。随分とご挨拶だな。俺は無視か?」
「あんたは、ちょっと引っ込んでてくれ。俺は今、珠美と話してる」
和磨……。
「珠美。俺、言ったよな?」
「……」
和磨の食って掛かってきそうな物の言い様に圧倒されて、座ったまま立っている和磨を見上げるだけで精一杯だった。
「白石。沢村さんが怯えてるじゃないか。こっちは話しの途中だし、はっきり言って迷惑なんだが……」
「熊谷さん。あんたも日本語通じない人だよな。珠美。こんなところに居ないで行くぞ」
エッ……。
「ちょ、ちょっと、和磨。待ってよ」
「久美子悪い。先に俺の家に行っててくれないか?」
「わかった」
わかったって、貴女。それ勝手に決めないでよ。
「和磨。ちょっと離して」
和磨に掴まれた腕を振り解こうとした。
「白石。まだ沢村さんと話の途中だ。勝手に彼女を連れていくな」
「そ、そうよ、和磨。私、まだ熊谷さんと話しが終わってない」
ちゃんと熊谷さんに、きっぱり断りたいんだから。
「いいから来いよ」
強引に和磨に手首を掴まれ引っ張られるように席から離れていくと、背中から熊谷さんの声を聞こえて後を振り返ると、すぐ後にはさっきの久美子という女の子がまったく動じもせずに付いてきている。もう、いったい何なの?
まるでお店から追い出すように和磨が私を連れ出すと、駐車場に停めてあった和磨の車の助手席に、無理矢理押し込まれてしまった。そして先に別の車に乗り、走り去る女の子に手を挙げ運転席に乗ってきた和磨に、思いっきり罵声を浴びせた。
「いきなり何するのよ。こんな事して痛いじゃない」
和磨に掴まれていた手首がまだ痛い。
「珠美。何考えてんだよ!」
車内に和磨の怒鳴り声が響き渡り、思わず首をすぼめてしまった。
「俺、言ったよな?熊谷は、とんでもない奴だから関わるなって」
「……」
怒鳴ったのはさっきだけで、今は穏やかな口調の和磨に戻っている。
「それなのに、何のこのこ会いに行ってんだよ?」
会いに行った理由も聞かずに、酷い言われようだ。
「わかりもしないで、言わないでよ」
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