君がたとえあいつの秘書でも離さない
 
 「あの。真鯛はないですか?」
 
 「ああ、真鯛でしたら、たった今最後の一切れが出ました。すみませんが、今日はもうありません。冷凍もないので申し訳ございません」
 店員が私の顔を見て、申し訳なさそうにする。常連なので、気を遣っているのだろう。

 見ると、横でその真鯛が包まれている。
 横の美しい女性が小さな声で答えた。

 「悪いわね。恐らく私が最後だわ」

 どこかでお会いしただろうか?そんな予感がするが、思い出せない。
 こんな美しい女性、忘れることはないだろうから気のせいかも知れない。

 「どちらかにお持たせで必要なのかしら?お渡ししないとまずいことになるの?」
 
 「いえ。早い者勝ちですからしょうがないです。お客様にもそのようにお伝えしますので。では、サワラと銀ダラを二匹ずつとホタテふたつをお願いします」
 
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