君がたとえあいつの秘書でも離さない
「かしこまりました」
その美しい女性は、白魚のような手で商品を受け取ると、私に向かって言った。
「ごめんなさいね。私も真鯛が好きだと言う人の誕生日なので特別にお昼に焼いてあげようと思って。今日じゃなければお譲りしたんですけど」
「いいえ。お気遣いありがとうございます。誕生日ですか。それは絶対購入されたほうがいいです」
「いつもはね、予約しておくんだけど。喧嘩してたからすっかり忘れて当日購入。こんなに人気商品だとは知らなかった。一口もらおうかしら」
「ええ、お酒のお供にもいいそうですよ。その方はどうやって召し上がっておられるのか分かりませんが」
「主人は、ご飯のお供にしているわ。夜は外のことも多いから、昼はしっかり食べているの。息子も家にいたときは、ニ尾買っていてふたりで食べてたわね」
「そうだったんですか」
「あらやだ、ごめんなさい。すっかり立ち話してしまって」
そう言うと、会釈をして暖簾を上げて出て行こうとする。