君がたとえあいつの秘書でも離さない
「奥様、お持ち致します」
暖簾のさきで、彼女の袋を手に取る男性。
すると、そこには運転手の柿崎さんの姿が。
「あ!」
「……古川様」
私達の声に驚いた彼女は再度私の方を振り向いた。
「え?柿崎と知り合いなの?」
私はどういうべきなのか、瞬時に判断できず、困った顔をしてしまったようだ。
「柿崎。何か悪いことしているんじゃないでしょうね?こんな若いお嬢さん相手に」
まずい、矛先が違う方へ向いてしまった。
お店の人から声をかけられ、とりあえず会計をして、暖簾を出ると二人が待っていた。
ふたりとも、にこにこ私を見ている。
「すみません。知らなかったとはいえ、失礼を致しました」
一応、頭を下げる。
「匠の大切な人は貴女だったのね。嬉しいわ。会わせてちょうだいと頼んでいたのになかなか会わせてくれなかったのよ。匠に内緒で先に会えるなんて、ツイてるわ」
え?どういうこと?
「奥様、古川様が驚かれてますよ」
柿崎さんが私を見ながら苦笑い。
「ごめんなさい。ピアノ弾いているでしょ?あの子のところにこの間行ったら、珍しくバイオリンを練習してたの。びっくりしたわ。忙しいのに新しい曲を練習していて。私、どういうことかと問い詰めたら、どうやら貴女と連弾したかったのね。可愛いところがあるわ」