君がたとえあいつの秘書でも離さない
side 匠Ⅰ
その日、珍しく父から携帯に連絡が入った。
会社で毎日基本的には会えるのだから、連絡してくる必要はないはず。
会社で話せないことだと直感し、少し嫌な予感がした。
実家へしばらくぶりに顔をだすということで話が決着し、夜久しぶりに実家へ帰った。
実家は会社のある地域からは少し離れているので、使い勝手が良くない。
それに、あそこにいると俺はいつまでも、変な話お坊ちゃん扱い。
母の代わりに俺を育ててくれた柿崎の母親や、父と母の口げんかも目にするのであまり精神衛生上良くなかった。
最近は、母にとって俺のマンションが逃げ場となっているようで、ピアノは実家にもあるのに、色々理由をつけてやってくる。
ただ、遙と付き合うようになり、彼女も突然来ることが多いので、そろそろ母には教えた方がいいかと思っていた。
母は、身分やその他のことで遙との付き合いを反対することはないだろう。
音楽に造詣が深い彼女の味方になるような気もしていて、実は密かに期待している。
彼女とのことは、いずれキチンとしなくてはならないが、今は目の前の入札が無事に終わるのを祈るだけだ。