君がたとえあいつの秘書でも離さない
 
 実家に帰ると、待っていたかのように女中頭の柿崎の母が出迎えた。
 
 「匠様。お帰りなさいませ。ああ、お久しぶりでございます。お元気でしたか?」
 
 「ああ。元気だよ。奈津も元気そうだね」

 「お前、いい加減にしなさい。お帰りになったばかりなのに、捕まえて問い詰めて」
 
 運転手の奈津の夫は、たしなめた。

 「ひどいわ。いつも匠様に会っているあなたに言われたくありません。私の気持ちなんてわからないでしょ。息子も毎日お会いしているし、私だけ不公平」
 
 「……」

 私は、険悪になった老夫婦の顔を見ながら言った。
 
 「今日は、奈津の夕飯が食べられるから、楽しみに帰ってきたんだ」
 
 奈津は、ぱあっと顔を明るくして嬉しそうに笑う。
 
 「そうでしょうとも。匠様の好物を並べましたよ。さあ、早く早く」
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