君がたとえあいつの秘書でも離さない
 
 父は、デスクの後ろのボードから洋酒を取り出して、グラスに注ぐとこちらに持ってきた。
 一口飲んで、グラスを持ちながら話し出した。

 「石井のところの秘書だと。次男の。それを聞いてピンときた。蓮見の取引が一部最近石井へいっているという報告だ。お前と蓮見の長男が親しいのは知っている。少し探れば長男が石井の秘書に入れあげているということもすぐにわかった」

 さすがだな。父には全てお見通しってところだな。
 でも分かっていて呼ぶとはどういうことなんだ。

 「彼女と知り合ったきっかけはご想像通りです。蓮見と一緒にいて、知り合いました。相手はふたりとも石井のところの秘書だった。彼は石井の秘書と付き合う前に、取引をはじめたことも私に事前連絡がありませんでした。いくら友人とは言え、ビジネスに関してはドライに付き合ってきました。彼の意図はわかっていたので、止めることもしませんでしたが、おそらく彼も石井とウチの関係を知っていたので言わなかったのだと思います」

 父は、グラスをテーブルに置いた。
 
 「先日蓮見社長から謝られた。お前には言ってなかったが……。長男の性格も分かった上で、補填を父親の社長が別な形で提案してきている。息子も哀れだな。親の心子知らず。まあ、人様のことは言えた義理でないがな」
< 112 / 274 >

この作品をシェア

pagetop