君がたとえあいつの秘書でも離さない
 
 「父さん。お話ししておきます。お付き合いしているのは確かに石井の次男、弘君の秘書です。僕も付き合うかどうか悩みました。惹かれているのはわかっていたのに、連絡を取らずに我慢していたんです。ですが、日にちが経てば経つほど、今までにない感情に揺り動かされて、結局敵対会社だとわかっていながら手を出してしまった。彼女も私が堂本だと知り、最初は驚いていました。でも、実は同じ気持ちだったと確認できたので、今後のことは覚悟のうえで付き合ったのです」

 「……覚悟ね。じゃあ、お前の覚悟とやらを聞こうか」

 「今、やっている入札は実は弘君との一騎打ちです。付き合うと決めた時に公私混同はしない、仕事の話はしないと決めています。どうしたって、今回のことはお互いの耳に入り、気にはなるでしょう。それより問題があるのです」

 「なんだ?」
 
 身を乗り出して聞いてきた父の顔をしっかり見ながら話した。

 「弘君のことをお父さんはどのくらいご存じかわかりません。彼はなかなかです。正直次男で助かった。彼が長男だったら大変でした」
 
 匠は息をのんでいった。
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