君がたとえあいつの秘書でも離さない
「さすがに副社長室は広いですね」
案内されながら入ったボスは、すぐにそう言った。
窓の外を眺めている匠さんは振り返らない。
「穂積さん。どういうことかな?弘君が来るなんて聞いていなかったが」
私達を案内してきた穂積さんと言われた秘書の女性は、匠さんを見て申し訳ございませんと頭を下げた。
「先ほど、取締役ご本人から緊急でお会いしたいと連絡がございまして、会議中の副社長に確認ができませんでした。営業一課長にはスケジュール変更をお願いしてございます。今日の夕方、空いた時間に入れております」
匠さんは、穂積さんを見たことのないような視線で見つめている。
彼女も、言い切ってから彼の顔を見て、驚いたように固まっている。
「……穂積さん。君のことは秘書室長を通して最近調べさせてもらったよ。ご実家のことや、そのほかは弘君から聞くとしようか」
青くなった彼女は弘取締役に目を移した。
「まあ、どうぞ。おかけ下さい弘君。秘書も同行とはどういうことでしょうか」