君がたとえあいつの秘書でも離さない
皐月はそう言うと、私の側に来て、耳元で小さな声で言った。
「おそらく、堂本コーポレーションの対抗策だと思う」
「え?」
「一ヶ月前くらいから弘取締役と相談しながら進めてたみたい。ぽろっと堂本コーポレーションがどうとか、話すのが聞こえたの」
私は、コーヒーカップを持ったまま、固まった。
「ねえ、遙。あれから取締役は何もしてきていないんでしょ」
「うん。接触はない。いつも通りの弘取締役に戻った」
「そう。嵐の前の静けさってとこかしらね。入札で負けたけど、そのままにはしないとか原田取締役が言ってたの。嫌な予感がする」
私が言葉の意味を考えて固まっている間に、皐月が全部コーヒーを入れてくれた。
「ごめん。余計なこと言ったね。気にしないで、私も見張ってるし。コーヒーは私に任せて」