君がたとえあいつの秘書でも離さない
side 匠 Ⅲ
温泉を出て、彼女を駅に送ると、俺は急いで実家へ戻った。
「匠様。旦那様がお待ちです」
秘書室長の柿崎がそう言うと、父の書斎へ案内された。
「お父さん、遅くなりすみません」
「……女将にも申し訳ないことをしたな、予約が入っていたから食事も準備していたろうに」
「そうですね。お父さんにあの部屋を譲って頂いたとは知りませんでした。ありがとうございました」
「彼女も喜んだか?」
「はい」
父は、自分のデスクの前から離れ、ソファに座ると正面から見据えてきた。
「……匠。すでに記事は止められない。恐らく大分前から計画されていたようだ。私の方で手を回したが拒否された」
「そうですか」
「お前の記事だけで済めばよいが。恐らく会社を巻き込むことになるだろう」