君がたとえあいつの秘書でも離さない
父は何も言わなかったが、俺はそれを了承と軽く考えていた。
母は喜んで、父と見に行くつもりだったオペラのチケットを譲ってくれた。
一度、父の好きな粕漬けの店で彼女に偶然遭遇して、出会いが良かったらしく、すぐにピアノの話をしたいと言って休みに彼女をマンションに呼び出すよう命令された。
休日にマンションへ遙に来てもらい、母はピアノを弾いてみせた。するとすぐにふたりで連弾したりしてはしゃいでいた。
帰る頃には恐ろしいほど仲良くなり、俺は一日放って置かれた。
彼女の会社のこと、俺との付き合い、全部父を問い詰めて聞いたらしい。
全面的に彼女の味方をしろと父を脅迫したと言っていた。
父には交際のことは話してあったが、母を手なずけられたのは予想外だったらしく、お手上げだとその時は言っていたのに……。
まさか、今日の昼間、父が彼女を呼びだして会っていたとは知らなかった。