君がたとえあいつの秘書でも離さない
先月、私は営業事務から担当秘書も兼任していた石井取締役の秘書業務に専念するよう言われて、秘書室勤務となった。
石井取締役は、私のいた営業第二部一課の担当部長だった。
皐月は営業一部時代に原田取締役の担当秘書となって、昨年すでに秘書室勤務になっていた。
私は彼女を追いかける形で石井取締役に付いて秘書室へきたのだ。
私は営業事務の入社二年目のころから、同期で担当だった春樹と交際していた。
ところが、付き合い始めて一年が経とうとしていた去年、新人の営業事務が彼の担当となり、雲行きが怪しくなってきた。
春樹が言うにはどうも彼女の押しに負けたらしい。いや、皐月曰く、正確に言えば春樹に浮気された。彼からしつこく話を聞いてくれと謝られたが、私は一顧だにしなかった。
社外ならいざ知らず、私の目の前にも関わらず、平気でそういうことができる人とはもう付き合っていられなかった。
二ヶ月前の十月頃にはフリーとなった。
すでに一年前フリーとなっていた皐月と私はクリスマスだというのにここに来た。皐月は、失恋した私を元気づけるためと言って、わざわざここを選んで連れて来てくれたのだ。
前向きな皐月といっしょにいると、春樹のことなどすぐに忘れられそう。秘書室勤務は願ったり叶ったり。変な噂からも解放される。
デザートのティラミスは皐月によりかろうじて合格点が出た。皐月はご機嫌で勢いよく立ち上がり、お店を後にした。