君がたとえあいつの秘書でも離さない
「匠さん、ちょっといいですか?」
取締役が声をかけて、料理のある壁際へ移動しはじめた。
私は一歩後ろをゆっくりと歩く。
「蓮見商事の取引の件です。ご存じですよね?」
「ああ、そちらと取引をはじめたようだな」
「あとで、妨害はなしでお願いしますよ」
「お互い、そこまで干渉しないよ。会社同士の付き合いだ。こちらもあまりにそちらに取られるようなら何か他の取引先を補填しないといけないけどね」
「ウチと取引はじめた理由は蓮見専務と親しい匠さんならご存じですよね?」
私をチラッと見た匠さんは、答えた。
「そうだな。ご想像にお任せしよう」
話を聞くのも悲しかった。
そして、むなしかった。