君がたとえあいつの秘書でも離さない
ガタンと音がして、匠さんが急に立ち上がって大声を出した。
「あー!」
「な、なに?」
「煽るなよ。我慢してるんだから。どうしてくれるんだ、もう」
くるくると部屋を歩き回る。
「あ、あの……」
「帰る」
「え?」
「一旦、帰る。また、後で来る」
そう言うと、くるりと背中を向けて帰って行った。
「遙のやつ……子供産んでから色気が増して、なんなんだあれ……」
帰り際彼がつぶやいた言葉にその時の彼女は気づかなかったが……。
匠の遙を求める衝動が入院中の彼女へ会うたびに、日に日に大きくなっていき……。
堂本邸へ戻ってほどなく、いやというほどそのことに彼女は気づかされることになるのだった。
fin.