君がたとえあいつの秘書でも離さない
貴方にもう一度会いたいと思っていたのに。
貴方はそうじゃなかったのね。
他人のふりをするなんて……。悲しかった。
もう、帰りたい。
彼のいるところにいたくない。
仕事なのにそんな気持ちになったとき、取締役と匠さんの話が終わり、二人は別れた。
匠さんとすれ違った。
すると小さな声で「……今日はうなじが見えない服で良かった」
そう言い残して……。
振り向いた私を置き去りにして、彼は会場の真ん中へ移動していった。
その後のことはあまり覚えていない。
「古川さん、どうした?」
何も話さなくなった私を気分でも悪いのかと勘違いした取締役が先に帰るように促してくれる。
私はお言葉に甘えて、退出を決めた。
彼の方を見ると、女性経営者に囲まれている。
じっと見た後、取締役に頭を下げて会場を後にした。