君がたとえあいつの秘書でも離さない
化粧室に寄ってから帰ろうと会場入り口の扉の前を通り過ぎようとしたとき、息を切らした匠さんが私の前に来て、腕をつかむと非常階段へ連れ込んだ。
「さっきはすまなかった。知らないフリをするのがお互いの為だと思っていた。必ずあとで君を捕まえるつもりで見張りまで頼んでおいたんだ。そんな顔しないでくれ。怒っているのか?」
「いえ。まさか、堂本コーポレーションの副社長様とは存知上げず。失礼致しました」
頭を下げて目を合わせない私に、彼は私の顔を両手でつかむと自分の方へ向けさせた。
「……会いたかった。俺だけか?君に会いたくて、裏工作までした。石井の社長と専務の出張は俺の裏工作の成果だ」
驚いて彼の顔をじっと見た。
目をむいて私を食い入るように見てる。
気づくと涙で前がかすんだ。