君がたとえあいつの秘書でも離さない
「さあ、繰り出すよ、最上階のバー、『エデン』へレッツゴー!」
化粧室でバッチリメイクを変えてきた皐月は意気揚々と私に向き直った。
「ねえ、ホントに行くの?」
「モチのロン。バトルしてイケメンゲットだぜ!」
いやいや、イケメンはポケモンじゃありません。
絶対、クリスマスイブの夜のバーなんて、カップルだらけだ。
そんなところに、何も好き好んで行くこともない。
「冷やかしに行こうよ。そして、たいしたことない女が相手だったら……」
まさか……。
「そう、バトルして、イケメンゲットだぜ!」
だから……はあ。
私の声は聞こえてないらしい。
エレベーターホールへまっしぐら。
すると……私達と同じようにイタリアンから出てきた背の高いふたり組の男性がいる。
ひとりは3つ揃えのチェックの上質な茶色ウールのスーツ。
見るからにオーダー。
もうひとりも濃紺のスーツ。
ピカピカの靴がまぶしい。
エレベーターホールで一緒になり、こちらを濃紺のスーツの人が見ている。
見ているのは、皐月?
こちらに近寄ってくると、皐月に向かって話しかけた。
「失礼ですが、石井コーポレーションの原田取締役の秘書の方ではないですか?」
皐月はびっくりして、その人を見ている。
「……そうですが。あの?」
「失礼。一度原田取締役にお目にかかったことがありまして。秘書の方がご一緒で、とてもお綺麗な方だったので覚えてまして」