君がたとえあいつの秘書でも離さない
「それを言うなら、冷たく初対面を装い、私を見ようともしなかった匠さんこそひどいわ。私がその後どのくらいショックだったか。誰のせいで、ボスに帰れと言われるくらいにおかしくなったと思ってるの……」
「すまなかった。今度埋め合わせさせてくれ。再来週、人に見られないように、迎えをやる。隠れ家のようなレストランがあるんだ。個室で、誰にも会わないようにできるところだ。十九時くらいに、君の会社から、ワンブロック先の時間制の駐車場に迎えの車をやる。柿崎という、私の運転手が行く。彼は身内のようなものだから、信用できる。名前を言ってきたら安心していい。心配なら、俺に電話するよう伝えておく」
「わかりました。大丈夫です」
「楽しみにしてる。それを楽しみに仕事頑張れそうだ。今日も一ヶ月前から苦労して時間を作った。楽しみに待ってたんだ」
「匠さん。私も楽しみにしてますね」
そう言うと電話を切った。
匠さんと話をした翌日。
役員フロアを歩いているときに、原田取締役と直也さんが歩いているのを見かけた。
どうやら、これから原田取締役の部屋へ行くようだ。