君がたとえあいつの秘書でも離さない
画面から目を離さず、私の気配に「なに?」と聞いてくる。
「……隆専務がこれからこちらにいらっしゃるそうです」
「はあ?忙しいのに。あと10分待ってって言っといて」
「弘、俺だって忙しい。この話が優先だから来たんだろうが」
私の後ろから、背の高い取締役に目元が似ている男性が入ってきた。
「兄さん。勘弁して。この書類だけだから、お願いだ。座ってて」
「しょうがない奴だな」
「専務、何を飲まれますか?今日は美味しい葛きりがあるので、お煎茶と一緒にいかがですか?」
「……古川君。君、ホント気が利くねえ。弘にはもったいない。ウチの方へ来ない?」
「兄さん!」
「おー恐ろしい。うん、とりあえずオススメをいただこうかな」
「はい。少しお待ちください」
そう言うと、給湯室へ戻った。
「いい女だな。お前が大切にするだけのことはある」
専務がその後つぶやいた言葉は聞こえなかった。