君がたとえあいつの秘書でも離さない
戻れぬ道
翌日夜に皐月から連絡が入った。
声に元気がない。
心配になった。
「どうしたの?」
「……取引の件、知ってるでしょ?」
「もちろん。それで何かあったの?」
「直也さんは、ウチの実家のために取引をしてくれたようだから、親は大喜び。突然持ちかけられて驚いたはずよ。私が絡んでいると知って、御曹司が相手だし勘違いしてしまって。彼の口のうまさが却ってあだになったわ」
「……ねえ、皐月。本当に好きで付き合ってるのよね?」
「遙からはそう見えないってことでしょ」
「ごめん、言い方が悪かった。心配してるの。貴女の恋がこんなことに利用されるなんて直也さんがよかれと思ってやっているんでしょうけど、会社の関係者にあなたたちのことが知れるのはいいこととは思えない」
「遙の言うとおりだわ。頭ではわかっているの。事がここまで進むとどうしようもない。雁字搦めだわ」
「何度も言うようだけど、素直に自分の気持ちを見つめてね。私は皐月の味方よ」
「……遙、ごめん。匠さんのこと。直也さんから口止めされてた。本当にごめんね」