君がたとえあいつの秘書でも離さない
 
 柿崎さんはそう言うと、携帯で連絡を取り始めた。

 終わると、出ますと言う言葉と共にエンジンをかけて発進した。
 
 車の中では彼が私の手を握っていた。

 話は特にしなかったが、疲れていたので少しうつらうつらしてしまった。

 「着いたよ」
 
 そう言われて、車を降りる。

 彼に手を引かれて、最上階へ。
 
 ワンフロアにひとつの扉。

 緊張して入ると、まるでホテルのような広い部屋だった。

 すぐにコンシェルジュが来て、鍋をセットしていく。

 水炊きだった。
 
 「夜は、あっさりとしているから食べやすいんだ。君も食べられるなら食べて」
 
 そう言うと、自ら入れ物とワインなどを並べだした。

 ポン酢に大根おろしもついている。あっさり食べられそう。

 私は、入れ物をもらうと、鍋の蓋をあけて、軽く二人分よそった。 
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