君がたとえあいつの秘書でも離さない
食事をして、リビングの奥の部屋へ。
明るいサロンのような部屋の真ん中にはグランドピアノ。
その横にはショットバー。
そして、ピアノの横にはバイオリンの箱がある。
「匠さん、バーで話していたバイオリンこれなのね。どのくらい弾けるの?」
「のこぎりをかきならす趣味程度なら」
「嘘ばっかり。こんな素敵なサロンを自宅に持っているなんて。相当弾けるんでしょ」
匠さんはこちらを見て、にやりと笑った。
「遙もピアノやっていたといってたじゃないか。じゃあ、お互い実力を知ることとしようか。何か弾ける?楽譜もあるが」
「何でもいいんですか?」
「有名なピアノ曲なら俺も知ってると思うんだ。俺はそれに合わせて弾くから」
そう言うと、バイオリンの箱を開けて、取り出す。
弓を取り、弦を締めて、松ヤニを塗る。
ピアノの蓋を開けて、ラの音を鳴らし、バイオリンを手に取ると調弦をはじめた。
私はゆっくりピアノに近づいて、座る。
「なんでもいいよ。適当に合わせて弾くから」
私も弾くのは実家を離れて以来だから三年ぶりくらいになる。
弾けるかな?大きく息を吸って手を鍵盤へ。
ショパンノクターン二番。
甘いメロディー。