君がたとえあいつの秘書でも離さない
 
 少し見せてもらうと、譜面に書き込みが入っている。
 お母様のものかもしれない。
 勉強になる。

 その日は夕方過ぎまでサロンでピアノとバイオリンで遊び、夜近くのレストランへ食事に出た後、また部屋へ戻された。

 夜の光の中でピアノの前に座って適当に弾いていたら、後ろに彼が座って身体をぴったり合わせてくる。
 連弾をするように弾いていたら、いつの間にか手を上から握られてしまう。

 「……遙。ピアノと俺とどっちが好き?」
 「ピアノよりも良い音を聞かせてくれるなら貴方のほうが好きです」
 そう言うと、顎を捉えて音を立ててキスをする。
 「どう?」
 「……ん」
 また、キスをする。
 彼の手がいたずらをはじめた。
 「……もう、あ……ダメ」
 身体に手が触れる。
 「さあ、いい声で今度は遙に歌ってもらおうかな……ベッドへ行こう」
 
 彼の愛を全身に浴びて、幸せいっぱいだった。
 日曜日は午後から仕事があるというので、私はタクシーで帰宅した。
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