君がたとえあいつの秘書でも離さない
驚いてみると、むっとした匠さんが私を背の後ろに隠した。
「……彼女は俺の連れだが……」
低い声で彼が言う。
すると、その男性は彼を見てすぐにきびすを返していなくなってしまった。
「俺もトイレに来たが、戻ったら君がいないと言われてね。遅いから見に来たら……間に合って良かったな」
「……ありがとうございます。助かりました」
「その服、背中からうなじが丸見えだ。気をつけた方がいい」
バックにレース素材が使われているこのドレスは、別に肌をむき出しにしているわけではないが、私は後れ毛を直してくれる匠さんの手を見つめるしかできなかった。
そのうち、席に戻ると匠さんと話すことが多くなった。
「こういうところには、良く来るんですか?」
「そうだな。仕事終わりなどに来ることが多い。女性連れはほとんどない」