君がたとえあいつの秘書でも離さない
「匠さんだろ?君が見ていたのは匠さんだ。秘書ではない」
恐ろしい顔で言いつのる。
「私をつけていたんですか?」
震える声を絞り出す。
「そんなわけないだろ。僕もあのカフェで待ち合わせだったんだ。君がいるのに気づいて声をかけようと思ったら、ある一点を凝視している。君のことはここ数年見てるからね。行動や目線を見れば考えていることはわかるようになったんだ」
怖い。どうしたらいいの。
「そんなにおびえないで。そんなつもりはない。怖がらせたならごめん」
いつもの優しい表情に戻る。
「ちょっと座って」
そう言うと、自らソファに移動した。
私も、はじかれるようにそちらに移動して座る。
正面から見つめられた。優しい顔に戻っている。
「蓮見商事の蓮見専務だけどね。元々、堂本コーポレーションの匠さんと親しいのは有名なことなんだ。高校も匠さんと一緒でね。まあ、色々あって知らない仲ではない。蓮見専務がちょろちょろしているのも知っていたし。だから蓮見商事がこちらと取引なんて天地がひっくり返るほどのことなんだよ」