君がたとえあいつの秘書でも離さない
 「君が僕と匠さんを天秤にかけているかと思うとぞっとする。僕の気持ち分かる?」
 
 「どうして?どうしてそんなことを言うんです?」
 
 「君が好きだから。君を独占したいから。そのつもりだった。ようやく元カレが消えて俺の番だったのに」
 
 立ち上がると私の前に来て、腕を引いて抱きしめた。
 
 「やめてください!」
 
 「落ち着いて。大丈夫だから」
 
 背中を撫でる手。気持ち悪い……。
 
 「震えているの?大丈夫だよ」
 
 怖い。匠さん助けて。
 
 すると、デスクの電話が鳴った。
 チッと舌打ちして、私を離すと電話に向かう。

 「はい。石井です。はい?ああ、わかりました。すぐに行きます」
 
 電話を置くと、私を見て言う。
 
 「社長から呼ばれた。社長室に行く。営業一課から連絡が来たら、システム上は承認したから動き出していいと伝えてくれ。あと、午前中の会議はキャンセル。社長との打ち合わせに変更。頼むよ」
 
 いつもの顔に戻っている。
 
 「……はい。かしこまりました」
 
 そう言うと、背広を持って部屋を出て行く。
 
 私はしばらく動けなかった。 
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