君がたとえあいつの秘書でも離さない
 
 じっと私を見ているような気がした。
 気のせいかも知れないが……。

 そして、きびすを返して、マンションへ入っていく。
 まさか、彼の部屋へ行ったの?

 私は彼の所に行くときは、部屋に着くまでその日に行くとは言わないようにしている。
 この仕事柄スケジュール変更が多いことも知っている。
 
 私が行くと分かっていると、優先順位を私にしてしまう。
 何か会社に迷惑をかけるようなことをしたくないからだ。

 一週間の予定をあらかじめ彼からもらい、大体予定が夜にないときに自分の予定と会えば行くようにしているのだ。
 そのほうが私も気が楽だ。

 今日は予定がないようだったから来たのだ。
 でも、彼女を連れて帰ってきたとしたら仕事のことかもしれないから、部屋へ行くのはやめようと駅に向かって歩き出した。

 五分くらい戻ったとき、携帯の着信音がした。
 見ると、匠さんだ。

 「……はい」
 
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