君がたとえあいつの秘書でも離さない
「え?同じマンションに入りましたよ」
「ああ、書類を渡しただけだ。心配させてすまない。でも聞かないで帰るとかやめてくれよ」
「そうですか。でも、見られない方がいいですよね」
ガチャンと音がして、エレベーターホールの音が今度は電話口から聞こえた。
「迎えに行く。動くなよ。わかったな。どの辺だ?」
何を言っても無駄なような気がしてきた。
「坂を下った辺りです。私、戻りますから……」
電話から返事がない。え?切れちゃったの?
すると、坂の上から手を振る匠さんの姿が見えた。
どれだけ走ったの?早っ!
「ハアハア……遙。見つけた。ここ下るから上ってこい」