祖国から追い出されたはずが、過保護な皇帝陛下と海の国で幸せな第二の人生を送っています─嫌われ薬師の恋と調薬─
「小屋の、中の、薬は、どうして、ここが」
本当は、そんなことが聞きたいんじゃない。でも、頭に浮かぶ疑問が絡み合い、整理できない。
「お姉様、体調が悪いはずなのに、何故か庭園に向かっているのをお見かけして心配で……あとをつけたら、毒を集めた小屋を見つけたのです。驚きました。私やお兄様を殺す気だったのでしょうか」
「私は、そんなつもりは……」
「ふふ。ここに置いてあったお姉様の予定も、読みました。月に一度、騎士団の……ヒヨスでしたっけ。その方に水薬を渡してい
るとか。騎士を懐柔して、どうなさるおつもりでした? 自分の犬にして、私やアミオロお兄様に毒を盛らせるつもりだったのですか?」
冷静に聖典を説くような声音だった。「そんなことない」と否定したいのに言葉を失う。
「このことは、騎士団長にお伝えします。副団長が、第一王女と裏通りで待ち合わせ……許されないことでしょうね。どんな罰が下るのやら」
「待って、お願い。それだけはやめて、ロゼ!」
私はロゼにすがりついた。
ロゼは「嫌です」と甘く目を細めたあと、悲鳴をあげる。
「助けて! 毒なんて飲みたくない! やめてお姉様! 殺さないで! 誰か、誰か助けて!」
突然ロゼが叫び、悲鳴を聞きつけやってきた騎士たちが小屋に入ってきた。彼らはロゼを守り、私の四肢を拘束していく。
──ああ、全て、最初からそのつもりで。
私はようやく、何故彼女が水薬や研究資料だけを始末し、毒だけ残したのかを悟った。
私が水薬を作っていることを知って、それが気に入らなかったわけではない。利用できると思ったのだ。ロゼからすれば私は両親を殺しても、なお裁かれぬ毒婦なのだから。
しかし、気づいたときにはなにもかも、手遅れだった。